心の技法 心理と自己理解

【モデリングの技術】優れた人の思考パターンを型として学ぶ

「あの人は、なぜいつも結果を出せるのだろう。」
「同じやり方をしているはずなのに、自分では同じようにいかない。」
そう感じたことのある人は、少なくないはずです。

こうした疑問に、NLPは『モデリング』という方法で答えようとしてきました。
『モデリング』とは、優れた成果を出す人の行動、判断の順序、物事の捉え方を観察し、そこに共通する構造を取り出して、他の人も使える形に整える手法を指します。
NLPという体系そのものが、このモデリングから生まれました。

この記事では、モデリングがいわゆる『真似』と何が違うのか、どのような手順で行われるのか、そして科学の側ではどう受け止められているのかを整理していきます。
最後に、日常の中で無理なく試せる形も取り上げます。

モデリングとは何か? NLPの出発点にある手法

1970年代、リチャード・バンドラーとジョン・グリンダーは、ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズ、家族療法のバージニア・サティア、催眠療法家のミルトン・エリクソンという、卓越した成果で知られる3人の臨床家を観察しました。
何を言い、どのような順序で質問し、どこに注意を向けているのかを丁寧に書き出し、そこから再現できる型を取り出そうとしたことが、モデリングの始まりです。

その成果として生まれたのが、メタモデルとミルトンモデルです。
パールズとサティアの質問の型から、曖昧な言葉を具体化するメタモデルが、エリクソンの言葉遣いから、あえて曖昧さを残すミルトンモデルが体系化されました。
NLPの代表的な技法の多くは、モデリングという方法から得られた成果物にあたります。

バンドラーとグリンダーは、NLPを『モデリングという方法論と、そこから生まれた技法群』と説明しています。
技法を覚えることと、技法が生まれた方法を理解することは、別の学びです。
モデリングは、後者にあたります。
NLPが実践から生まれた体系と言われる理由も、この出発点にあります。

「真似」とモデリングの違い

見える線の、奥にあるもの

優れた人を真似するだけなら、見える動作を再現すれば足ります。
ところが、同じ話し方、同じ姿勢、同じ手順を再現しても、同じ結果にならないことは珍しくありません。
動作の背後にある、見えない部分が抜け落ちているためです。

NLPでは、優れた人の内側を、おおむね三つの層に分けて捉えます。

【行動の層】外から見える動作

話すときの言葉選び、声の調子、間の取り方、姿勢といった、外から観察できる部分です。
真似の多くは、この層で止まっています。

【思考の順序の層】何をどの順に考えているか

優れた人は、ある場面で何に注意を向け、何を手がかりにし、どの順序で判断しているのでしょうか。
NLPではこの順序を『ストラテジー』と呼びます。
たとえば、商談の場で相手が口を開く前の表情を見て、話す内容を決めている人がいるとします。
その手がかりと判断の順序が、ストラテジーにあたります。

【信念と価値観の層】なぜそう動くのか

同じ場面でも、『失敗は学びの材料になる』と考える人と、『失敗は避けたい損失だ』と考える人では、行動の選び方が変わります。
優れた人の行動を支えている前提を知らないまま動作だけを借りると、土台を欠いたまま形だけが残ります。
この層は、観察だけでは見えにくく、質問や対話を通じて探っていくことになります。

ここで一点、言葉の整理をしておきます。
心理学で『モデリング』といえば、まず指されるのは、バンデューラが体系化した観察学習です。
人は他者の行動を見るだけで学習でき、そこには注意・記憶・再現・動機づけという4つの働きが関わるとされています。
NLPのモデリングも、他者から学ぶという点では同じ領域にありますが、観察の対象が動作にとどまらず、判断の順序や前提にまで及ぶ点に特徴があります。

バンデューラは、自己効力感を支える源の一つとして、自分と近い他者がうまくやる様子を見る『代理経験』を挙げています。
身近な誰かの成功を観察することが、自分にもできるという感覚を支えます。
この点は、セルフ・エフィカシーの考え方とも深くつながっています。

優れた人ほど、自分のやり方を説明できない

モデリングが難しい理由は、優れた人自身が、自分のやり方を言葉にできないことが多い点にあります。
哲学者のマイケル・ポランニーは、人は語れる以上のことを知っていると述べ、言葉にしにくい知識を『暗黙知』と呼びました。
自転車に乗れる人に、どうやってバランスを取っているのかと尋ねても、納得のいく説明を得るのは難しいでしょう。

熟達者の知覚が初心者と違うことは、認知心理学でも繰り返し示されてきました。
たとえばチェスの熟達者は、盤面を駒の配置のまとまりとして一目で捉えています。
消防指揮官の意思決定を調べた研究でも、熟練者は選択肢を一つずつ比べる前に、状況を見た瞬間に過去の経験と照らして行動の見通しを立てていることが報告されています。
本人にとっては当たり前のことなので、説明しようとしても、何を語ればよいのか分からなくなります。

学習の段階を表す言葉では、この状態を『無意識的有能』と呼びます。
意識しなくてもできるようになった技能ほど、言葉になりにくいという関係があります。

そのため、モデリングでは「どうやっていますか」と尋ねるだけでは足りません。
認知科学にも、熟達者の判断を引き出すための『認知的タスク分析』と呼ばれる手法群があります。
印象に残った具体的な場面を一つ選んでもらい、その場面で何に気づき、何を考え、何を選んだのかを、順を追って掘り下げていく聞き方が代表的です。
NLPのモデリングと目的が近く、共通点の多い取り組みです。

【モデリングの手順】観察・体験・構造化・検証

順番に、確かめていく

流派によって細部は異なりますが、モデリングは、おおむね次の流れで進みます。

モデリングの5つの段階

1 対象と目的を決める
誰のどの技能を学ぶのかを絞ります。人物全体を対象にせず、特定の場面での特定の技能に焦点を当てます。

2 情報を集める
実際の場面を観察し、本人にも具体的な場面を思い出してもらいながら質問します。

3 型を組み立てる
行動、判断の順序、前提を整理して、仮の型にまとめます。

4 自分で使って試す
型のとおりに実行して、似た結果が出るかを確かめます。

5 調整して移せる形にする
うまくいかない部分を直し、他の人も使える言葉と手順に整えます。

三つの立場から観察する

モデリングでは、情報を集めるときの立場を意識的に切り替えます。
一つ目は、自分自身の視点です。
自分の枠組みで見すぎると、相手の型を取り出したつもりが、自分の解釈を写しただけになる危険があります。

二つ目は、相手の立場になって体験してみる視点です。
相手の姿勢や呼吸、注意の向け方を自分の身体で再現しながら、その場面で何が感じられるかを味わいます。
三つ目は、少し離れた観察者の視点です。
全体の流れと、前後の因果を冷静に見ます。

流派による重心の違い

同じモデリングでも、NLPの中には重心の置き方に違いがあります。
グリンダーは、実在の人物の微細な行動と言葉を直接観察し、まず自分の身体で再現できるようになってから、構造を分析する進め方を重視しました。
ディルツは、歴史上の天才たちが残した伝記や記録をもとに、思考の戦略を再構成する研究を進めました。
前者は体験に近く、後者は概念に近い取り組みです。
目的に応じて使い分ける視点が役立ちます。

科学的な見方では慎重に扱う部分もある

モデリングの考え方そのものは、認知科学の熟達化研究や暗黙知の研究と重なる部分が多く、発想としては筋が通っています。
一方で、NLP全体の科学的な評価は厳しく、とりわけ視線の動きから思考のタイプが読めるといった個別の主張には裏付けが得られていません。
モデリングという手続きそのものを、独立した形で検証した研究も乏しいのが現状です。
実践上の落とし穴も、いくつか指摘できます。

一人の例からは、何が決め手かが分からない

優れた一人を観察しても、その人の行動のうち、どれが成果に効いていて、どれがたまたまの癖なのかは、観察だけでは切り分けられません。
成果の出ていない人と比べて初めて、違いが見えてきます。
熟達者と初心者を比較する認知科学の研究が重視するのも、この点です。

本人の説明は、後付けになりやすい

心理学の古典的な研究には、人が自分の判断の理由を説明するとき、実際の働きを内省できているとは限らず、もっともらしい理由を後から組み立ててしまう傾向を示したものがあります。
本人の語った内容をそのまま型として採用すると、実際に働いている要素を取りこぼす可能性があります。
観察できる行動と照らし合わせ、本人の説明を仮説として扱う姿勢が欠かせません。

成功した人だけを見る偏り

成果を出した人だけを集めて共通点を探すと、同じ行動を取りながら成果の出なかった人が視野から外れます。
この偏りは『生存者バイアス』と呼ばれ、成功者の研究全般に付きまといます。

文脈が変わると、型が働かなくなることがある

ある場面で機能した型が、別の環境や別の人物で同じように働くとは限りません。
組み立てた型は仮説として扱い、自分の場面で試しながら調整していきます。

モデルは地図であり、実在する人物そのものとは別物です。
この点を忘れずに、使えるところを使い、合わないところは手放す姿勢が、モデリングを現実的な道具にします。

日常でできるモデリング

身近な人から、学べることがある

大がかりな手法を使わなくても、モデリングの考え方は日常の学びに取り入れられます。
たとえば、会議で議論を前に進めるのが上手な同僚がいるとします。

対象を一つの場面に絞る

「あの人のようになりたい」という憧れは、そのままだと対象が広すぎます。
学びたいのは、会議の冒頭で論点を整理する場面など、具体的な一つの技能です。
人物全体を真似る必要はありません。
場面が絞れるほど、観察する点と質問が明確になります。

見ているものと、考えている順序を聞く

相手の許可を得たうえで、具体的な場面を一つ思い出してもらいます。
その場面で何に気づいたのか、どの順序で考えたのか、何を基準に選んだのかを、順を追って尋ねます。
「どうやっていますか」と漠然と聞くよりも、具体的な場面を軸にした質問のほうが、本人も思い出しやすくなります。

小さく試して、記録する

聞き取った内容は、仮の型として手元に置き、小さな場面で試します。
結果を記録し、うまくいった点と合わなかった点を分けておくと、自分用に調整しやすくなります。
取り入れる対象は、特定の場面での技能に限ります。
相手の価値観や生き方そのものを借りようとしないことが、相手への敬意にもなります。

次のような小さな習慣から始めてみると、無理なく取り入れられます。

今日からできること

観察の習慣
身近な人の中から、一つの技能に絞って、うまいと感じる場面を探してみましょう。

質問の習慣
その人に、具体的な場面を思い出してもらい、何に気づいて何を選んだのかを尋ねてみましょう。

記録の習慣
聞き取った型を一度試し、うまくいった点と合わなかった点を書き残しましょう。

最近「この人のようになりたい」と感じた相手を、思い浮かべてみてください。
その人の何に惹かれたのでしょうか。
見えている動作でしょうか。
それとも、その場面で何を見て、何を考えているかという、まだ見えていない部分でしょうか。

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