心の技法 心理と自己理解

VAKOGモデルで分かる、人によって違う情報処理のクセ

同じ景色を見ていたはずなのに、後から話すとまるで違う印象を語る人がいます。
ある人は「あの店、雰囲気がはっきり見えるようだった」と話し、別の人は「BGMの響きが心地よかった」と語り、また別の人は「なんだか落ち着く感じがした」と伝えたりします。
同じ場所にいたのに、記憶に残っている部分がこれほど違うのはなぜでしょうか。

NLPでは、人が情報を五感のどれを通して処理し記憶しやすいかを扱う枠組みを『VAKOGモデル』と呼びます。
視覚(Visual)・聴覚(Auditory)・触覚(Kinesthetic)・嗅覚(Olfactory)・味覚(Gustatory)の頭文字を取った呼び方です。
どの感覚を重視するかという違いは、優劣の差ではありません。
それぞれの感覚には、それぞれの得意な捉え方があります。

この記事では、VAKOGモデルがどのような仕組みで人ごとの情報処理のクセを生み出しているのか、そして日常の会話の中でどう活かせるのかを整理していきます。

専門的な資格がなくても、優位感覚という視点を知っているだけで、身近な人とのやり取りの見え方が少しずつ変わってきます。

VAKOGモデルとは何か 5つの感覚に分けて情報を捉える視点

VAKOGモデルは、NLPの創始者であるリチャード・バンドラーとジョン・グリンダーが1970年代にまとめた、人間の情報処理を五感の枠組みで捉える考え方です。
人は経験を、視覚的なイメージ、聴覚的な音や声、触覚的な感覚、そして嗅覚や味覚といった形で、内側に記録していると考えられています。
この記録の仕方の違いが、後から思い出すときの言葉や表現にも反映されていきます。

NLPの文献では、このうち視覚・聴覚・触覚の3つを指して『VAK』という略称が使われることも多くあります。
嗅覚と味覚は言葉として表れる機会が少ないため、実践の場面では3つの感覚に重点が置かれる傾向があります。
ただし、体系としての正式な枠組みは5つの感覚すべてを含むVAKOGであり、この記事でも5つの感覚を基本として扱います。

優位感覚を知ることは、自分自身がどのように物事を理解しやすいかを知る手がかりにもなります。
仕事や学習の場面で、自分に合った情報の受け取り方を選べるようになることが、この枠組みを学ぶ実用的な意味です。

あらかじめ触れておくと、VAKOGモデルはNLPの実践者の間で長く使われてきた枠組みですが、心理学の実証研究で確立された理論ではありません。
人にはっきりとした固定的な優位感覚があり、それを判別できるという中核的な主張については、後述するように学術的な検証で慎重に扱う必要があります。
この記事では、そうした限界を踏まえたうえで、日常のコミュニケーションで活かせる視点として整理していきます。

なぜ人によって情報処理のクセが違うのか

人は五感のすべてを使って経験を処理していますが、その中でどの感覚を優先的に使うかには個人差があります。
この優先される感覚は『優位感覚』と呼ばれ、同じ出来事を経験しても、後から思い出すときに使う言葉や記憶の残り方に違いを生み出します。

優位感覚は、生まれつき固定されているものではなく、育った環境や職業、日々の習慣によっても変化していきます。
音楽に携わる時間が長い人は聴覚的な表現が増え、体を動かす仕事に携わる人は触覚的な表現が増える、といった傾向が見られます。
デザインや写真に携わる時間が長い人は視覚的な表現が増え、対話を重視するカウンセリングのような仕事に携わる人は聴覚的な表現が増えていく、といった変化も見られます。
優位感覚は固定された性格のようなものではなく、経験によって育っていく側面を持っています。

5つの感覚のクセ

それぞれの感覚が優位なとき、どのような傾向が表れやすいかを整理すると、次のようになります。
あくまで一般的な傾向であり、当てはまらない場合ももちろんあります。

5つの感覚のクセ

視覚優位
景色や表情、資料の見た目など、目に映る情報から記憶し、頭の中でイメージを描きながら考える傾向があります。

聴覚優位
声のトーンや音楽、会話のリズムから記憶し、頭の中で言葉や音を反芻しながら考える傾向があります。

触覚優位
体の感覚や気分、手触りから記憶し、実際に体を動かしながら考えると理解が深まる傾向があります。

嗅覚優位
香りの記憶と結びついた出来事を、他の感覚よりも鮮明に思い出しやすい傾向があります。

味覚優位
食事や味の記憶を通して、その場の出来事全体を思い出しやすい傾向があります。

多くの人は複数の感覚を組み合わせて使っており、一つの感覚だけに偏っているわけではありません。
場面によって優位な感覚が入れ替わることも珍しくありません。
仕事では視覚優位に働く人が、リラックスした時間では触覚優位に切り替わる、といった変化も自然に起きています。

言葉の端々に表れるサイン

NLPの実践では、優位感覚が日常の言葉遣いに表れると言われてきました。
視覚を重視して考えがちなときは『見えてくる』『はっきりする』『視点を変える』といった言葉を、聴覚を重視して考えがちなときは『聞こえてくる』『話がかみ合う』『しっくり響く』といった言葉を、体の感覚を重視して考えがちなときは『感じる』『つかめる』『重みがある』といった言葉を選びやすいとされます。
ただし、こうした対応関係が厳密に確認されているわけではなく、あくまで観察の切り口の一つとして扱う姿勢が欠かせません。

同じ『理解した』という状態を伝えるだけでも「見えてきました」と言う人もいれば「腑に落ちました」と言う人もいます。
この違いに意識を向けるだけで、相手がどの感覚を通して物事を捉えやすいかのヒントが得られます。

会議の場でも、この違いは表れます。
ある人は「イメージを共有したい」と資料を求めやすく、別の人は「詳しく話を聞かせてほしい」と口頭での説明を求めやすくなります。
同じ「分かりやすく伝えてほしい」という要望でも、その中身は人によって異なっています。

すれ違いが生まれる仕組み

優位感覚が異なる人同士が話すとき、無自覚のうちにすれ違いが起きることがあります。
視覚優位の人が「イメージが湧かない」と伝えているのに、聴覚優位の人が言葉で詳しく説明を重ねるほど、かえって伝わりにくくなってしまう場面がその一例です。

資料作りでも同じことが起きます。
図やグラフを重視する人と、文章での詳しい説明を重視する人が一緒に資料を作ると、お互いに「分かりにくい」と感じ合ってしまうことがあります。
これは能力の差ではありません。
優位感覚の違いから自然に生まれているすれ違いです。

家庭内の会話でも、同じことが起きます。
触覚優位のパートナーが「なんとなく落ち着かない」と感じている一方で、聴覚優位のパートナーが言葉で理由を説明しようと質問を重ねるほど、かえって気持ちがすれ違ってしまうことがあります。
優位感覚の違いを知っておくだけで、こうしたすれ違いの受け止め方が変わってきます。

チームでのやり取りでも、優位感覚の違いを知っておくと役立つ場面があります。
会議の議事録一つを取っても、図解を好む人と、文章での詳細な記録を好む人がいます。
どちらか一方の形式に統一するのではなく、両方をあらかじめ用意しておくだけで、伝わり方の差は小さくなっていきます。

科学的な見方では慎重に扱う部分もある

VAKOGモデルには、実証的な検証の面で慎重に扱う必要のある部分があります。
人を『視覚型』『聴覚型』と固定的に分類できるという中核的な主張について、学術的な心理学の研究では十分な裏付けが得られていないと繰り返し指摘されてきました。
優位感覚を目の動きや言葉の選び方から確実に判別できるという主張も、複数の実証研究で支持されていません。
VAKOGをもとにした『学習スタイル』理論、つまり型に合わせた指導法が学習効果を高めるという主張についても、大規模なレビュー研究で実証的な裏付けが得られていないと結論づけられています。
教育心理学の分野では、この考え方は『ニューロミス』(脳科学に関する研究データが拡大・流通する中で生まれた、科学的根拠がないか誤解を招くような俗説・誤った思い込みのこと)のひとつとして扱われる場面も増えてきました。

一方で、複数の感覚を組み合わせて情報を伝える学び方そのものには、一定の効果があることが心理学の研究でも示されています。
人によって感覚の使い方に幅があるという事実も、日常の観察と矛盾しません。
型に当てはめて固定することと、感覚の多様性を尊重することは、分けて考える必要があります。
VAKOGは、確立された分類法としてではなく、自分や相手がどの感覚を使うと理解しやすいかを意識するための視点として使うのが、現在の科学的知見と整合する姿勢になります。

日常での実践

相手が使う言葉を意識して聞き取り、同じ感覚の言葉を選んで返してみると、会話がかみ合いやすくなることがあります。
これはペーシングとリーディングで扱った、相手の話し方に自分を合わせるという考え方の、言葉の面での応用です。

視覚優位の人にとっては、色や配色といった視覚的な情報が、他の感覚以上に強い印象を残しやすくなります。
色彩心理で扱ってきた内容も、視覚優位の人とのコミュニケーションを考える上で役立つ視点になります。
逆に聴覚優位の人には、声のトーンや言葉選びの方が、色以上に強く印象を左右することがあります。

自分の優位感覚が一つの感覚に偏っていると感じたときは、あえて別の感覚に意識を向けてみる時間を作ることも一つの方法です。
普段あまり使わない感覚に意識を向けることで、物事の新しい捉え方が見えてくることがあります。
散歩の途中で香りに注意を向けたり、食事の味をゆっくり確かめたりするだけでも、日常の感じ方は少しずつ変わっていきます。

難しく考えず、次のような小さな習慣から始めてみるのがおすすめです。

今日からできること

自分がよく使う言葉に、視覚・聴覚・触覚のどの感覚が多いか観察してみましょう。

相手が使った感覚の言葉を、会話の中でさりげなく拾って返してみましょう。

説明が伝わりにくいと感じたとき、別の感覚の言葉に言い換えて試してみましょう。

週に一度、普段あまり意識しない感覚(香りや味、体の感覚)に注意を向ける時間を作ってみましょう。

次に誰かと話がかみ合わないと感じたとき、内容そのものではなく、お互いが使っている感覚の言葉に意識を向けてみてください。
最近の会話を振り返ったとき、自分がよく使っている感覚の言葉には、視覚・聴覚・触覚のうちどんな傾向があったでしょうか。

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